■琉球新報2011年6月15日(水)展評 翁長 直樹(グループZO同人)
「魂に響く魔術的空間 ラテン・アートの道開く」

最初にドミンゲスの作品に接したのは、1998年の浦添市美術館の「カリブ海アート」展だった。ラテンアートというと底抜けに明るいイメージを持たれがちだが、その明るい部分の裏には濃い影が二重写しになっている。ドミンゲスはまさにカリブ海のその光と影を見せてくれる作家であった。今やキューバを代表し、日本でもかなり評価が高く、各地で展覧会が開催されている画家である。
キューバというと2年に1回、ハバナビエンナーレ展が開かれていて、数年前は目と鼻の先まで来て、行くことがかなわず、残念であった。彫刻家のG氏は何回か足を運んでいて、うらやましい限りである。キューバにはアフロ文化とスペインなど複数の混淆(こんごう)文化があふれている。この十数年の世界の文化のベクトルはキューバやカリブ海、ブラジルなどラテン文化のクレオール性(最近は使わなくなった)にあった。いわゆる軽いノリのファッション用語とまでなった言葉は聞かれなくなったが、真の意味における混淆文化はもう一度問われるべきだろう。
さて、ドミンゲスであるが、ある意味で非常に正統派のスタイルで絵画を作っているが、それがこちらの魂に響いてくるのである、描かれているのは人物などである。それが重なったり、複雑に入り組んだりしている。黒の使い方が、非常にうまく、赤との配合が絶妙な調和で、幻想性を喚起する。いわゆるサウダージ(ポルトガル語で郷愁とでも訳すべきか)と言われるものかもしれないが、しかしそこにはカトリック的なものも入り込んでおり、幻想性と同時に精神性が感じられる。激しさと安らぎの共存とでも言うべき空間が魔術的に生み出されている。
まず、極めて原初的な生命が核にあり、それを抽象的な形式と、具象的な人物などが黒い色で幾層にも描かれ、アフリカを思わせるダイナミズムが覆っていると言えばよいだろうか。キリスト、マリア、仮面、奴隷、時には鳥のような頭が浮かび上がるそれぞれが入れ子状にあるいはお互いに接し合っている。
活躍の長さ、国民栄誉賞などを受賞し、画格の堂々としたところなどから彼の大先輩であるウイフレド・ラムとそれほど年齢は離れていないだろうと勝手に想像していたが、1947年生まれである。ラムが切り開いたラテン・アートへの道=ラテンのアイデンテティーの探求は、ドミンゲスによってますます大きく開いていっているという実感だ。
以前自前の調査で、カリブ海に行った。そこはまったくこれまで経験したことのない空気感があった。「そこに誰がいてもよい」という、自分が受け入れられているという安心感漂う土地であった。しかもかつても現在も悲しい歴史を背負いながら。
これまで沖縄で開催された何回かのドミンゲス展で、沖縄アート界にも多いに触発される作家が出てきたというのは、開催する側としても大きな意義があるだろう


■琉球新報2011年6月15日(水)展評 フリオ・ゴヤ(彫刻家)
「画面に潜む内的美しさ」

キューバ美術の新しい方向性を持つ作家として、先頭に立っているアーティスト、ネルソン・ドミンゲス。
日本では、キューバはスポーツ、音楽でのイメージが強い。沖縄との共通点は気候的に亜熱帯であること、サトウキビの生産を盛んに行い生活しているなどいろいろある。その環境からくる類似点は、非常に面白いことに我々、沖縄人とキューバ人の明るい気質にも反映し、その土地の文化を育んだ。
1920年代、前衛キューバ美術には、作家ウイフレド・ラムがいる。アフロ・キューバン主義をテーマに取り入れたアーティストで、それを引継いだ新しい世代の代表の1人が、ネルソン・ドミンゲスと言える。
ネルソン・ドミンゲスのアトリエ・ギャラリーは旧ハバナ市内のサンフラシスコアシス大聖堂の広場に面した通りにある。私は第7回ハバナビエンナーレを見に行ったときに彼のアトリエを訪ねた。彼は快く迎えてくれた。1回が大きな展示会場、まるでコロニアル風な美術館のようだった。2回に自分の制作場、建物の奥にはすてきなパティオのような庭があり、夜はカジキマグロをまるまる1本炭焼きでごちそうになった。実はネルソンは料理が大好きなのだ。
氏の作品は詩的で、キューバの文化や風景、習慣など、その国のポピュラーな雰囲気が見える。画面に力強い筆遣いを感じる。そのポピュラーなイメージの中に目に見えないフォルムが潜んでいる点に興味を覚える。
例えば、人の手や目を登場させるのは1つの合図だろう。現実に見えない画面に内的美しさ、情熱、愛情等をたたえている。
具象と抽象のバランスをうまくとりながら幻想的に表し、作者の深いところから出て来るのを感じる。幻想と感情が神秘的に画面に現れる。筆で作家が探求する精神世界は私たちの日常の世界とは違い、その作品を鑑賞する瞬間に伝わってくる。
これまでの作品を振り返ると、版画、ドローイング、陶板、ミックスメディアなどさまざまなテクニックを取り入れ、日常の世界、生と死の世界、いろんなモチーフを融合し、いつも違う技術と素材を利用して作品に命を吹き込んでいる。
今回沖縄で初めて発表している陶板「青の男」は、コバルトブルーの色が強烈だ。氏の作品は少ない色使いで画面奥の絵が透けて見える表現や、強いコントラストで作品を構成している独自の世界が魅力的であり、国境を超えるパワーを伝えることだろう。